アメックスカード

昨年の夏、久々に帰省した私は、東京のビルの圧迫感に辟易していました。大学1年から6年間住んだ京都は高層階を持つビルがほとんどなく、中心部からでもかなり遠くまで見晴らせます。多少込み入った箇所でも、少し歩けば眺望の開けるところがすぐ見つかるのです。環境と視界の違いにいよいよしんどくなりかけ、生活リズムも言葉遣いも乱れてきたころ、見かねた友人が海にいこうとさそってきました。痒い所に手の届く、気の使い方に感激し、2つ返事で水着とゴーグルの準備に取り掛かり、いざ出発。工場地帯の煙の見える、あまりきれいではない東京湾も、当時の私にはきもちよく、満足でした。泥だらけになりながら、浜辺で過ごし、飽きると沖へ。25メートルもろくに泳げない私は、水泳部の彼のきれいなフォームに見とれていました。波のないプールでも、波のある海でも同じなのですね。いい加減肌もヒリヒリしてきて、疲れもだいぶたまってきたころ、またしても彼のナイスな提案。温泉に行こう。埼玉の田舎から東京に出て、すっかり慣れ切った彼を頼もしく思いました。さっとシャワーを浴び、塩まみれの体のまま近くの某温泉に。迫力のある入口でポーズを決めて気に入った1枚が取れるまで写真をひたすら撮り、うきうきしている自分を笑いながら扉をくぐった先に、いらっしゃいませという威勢のいい声。だが、どうも様子がおかしいんです。ここの温泉はバイトの女の子が仲居っぽい恰好をして迎えてくれるのだという事前知識があってだいぶ楽しみにしていたのですが、迎えてくれたのは高級スーツ姿にピシッと決めた仕事のできそうな男女二人組。はてここは丸の内かしら。何かがおかしい。張り付いた笑顔でお姉さん、説明するに、アメックスのカードに入会いただくと、温泉の入場券をプレゼントします。とのこと。そうか、キャンペーンやってるんだと合点し、運がいいと喜びました。ちょうど懐具合を心配しあっていた苦学生、勇んで入会の手続きを取る。一人ずつタブレットをわたされ、説明を受けながら氏名、住所、年齢、職業などの項目をてこずりながら埋めていく。さて、カードは3種類の中から択べるようになっていました。それぞれ受けられる特典の豪華さによってグレード分けされており、私は自分にはこれ、と一番グレードの低いものを選び、入会しました。出世するにしたがってカードのグレードを上げていく楽しみを残したのです。それでもさすがはアメックスで、様々な特典を受けることができます。他にもクレジットカードをたくさん持っている私は、これを機会に乗り換えるか、あるいはいつでもやめられるだろうと見込んでの入会でした。長い長い入会手続きを終え、温泉入場券を手にしたころには、若くて体力の有り余っているはずの私たちも、海水浴とのダブルヘッダーではさすがに疲れてしまっていましたが、これが逆に温泉の気持ちよさを増幅するという狙いがあったのでしょうか。靴をしまい、気に入った浴衣を選び、大浴場に入ります。温泉は適温で、濁り湯もジャグジーも露天風呂も、果ては牛乳風呂もあります、牛乳風呂は湯の中が何も見えず、隣の人と毛むくじゃらの足と足が触れ合い、笑いあうというハプニングも起こります。私の楽しみはサウナでした。風呂場の人口密度は高いのですが、サウナは空いていて快適でした。そして、備え付けのシャンプーはいくらシャワーの温水をかけてもなかなかぬめりがとれない、保湿に優れたものでした。割とどこにでもある業務用を使っていたとは思うのですが。さて、塩も疲れも取って、いよいよお楽しみです。ここの温泉は基本的に浴場とアミューズメントエリア、そして休憩用のエリアに分かれています。アミューズメントコーナーでは、駄菓子やスナック、食事、ゲームコーナー、屋台など、みな思い思いに楽しみます。ぎりぎりまで出費を切り詰めたい私たち苦学生は、ここが腕の見せ所、タコ焼きを買ってシェアし、うまい棒を買ってシェアし、プリクラを撮ってシェアしました。生まれて初めてのプリクラを男ととることになるとは。いや、そういえば幼稚園の年中で母と撮っていました。女性と撮ってはいたんです。
さて、アミューズメントエリアでは、浴衣がけに裸足で畳やカーペットの敷かれたうえで過ごすことになります。1日に何千人と利用するこの施設、やっぱり気になるのが床のよごれですよね、もちろん清潔にはしてくれているんですが、たぶん磨いたそばから汚れていくでしょう。掃除が追いつかないのも仕方ありません。家に帰ると猛烈なかゆみ。はっきり名前を言うことは避けておきましょう。ちなみにこのかゆみの治療費、24回分割のアメリカンエキスプレスのカード払いで払っております。ひょんなことから出会って使っているこのカードとの不思議なご縁はもうしばらく続きそうです。出世してカードのグレードを極めるころまでにはこの猛烈なかゆみも、治癒されているといいのですが。

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